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暮らしと仕事の安定を図るには、ここでも労使が一体となって時間をかけて協議することが最善だった。
らには、最後の最後まで調整が図られた。
こうして「現行の年金制度改革」「給付の切り下げ」「過去分の一括償却」という三本柱で取り組んできたOBの年金制度改革も、目標に掲げた○四年度中に大きなヤマ場を越すことができたのである。
オールJTBとしての考えや、各社の事業方針が明確に指し示され、社員問に共有されはじめると、不安や動揺も次第に薄れて、活性が見られるようになったという。
労使ともに、誠意と熱意を持って臨んだ改革とホールディング化は、組織への求心力や団結力という点でプラスに作用する結果となったようだ。
リストラ後を生き延びるための新たなステージへ業態の垣根を越えたサービス供与の時代へ「一億総中流」の意識は霧消し、「スタンダード」といえるものが明確化されない時代に突入すると、絶対的な価値観や倫理観というものが崩れ、さまざまな階層を生み出した。
消費は多様化し、サービスを供与する側もまた、質・量ともに多様性を帯びている。
企業においては、従来の「多角化経営」だけでは、大きなシナジー効果が上げにくい時代になった。
だからこそ、「レバレッジ」と、「ストレッチ」を活かすことで、企業力を最大化できると考えるようになった。
企業におけるストレッチとは、弛緩をもたせる源、すなわち「野心」である。
経営資源が豊富な企業でなければ、ストレッチの作用は起こしづらいといわれている。
確かにやる気は満々でも、それに伴う企業の資本や本人の能力、達成可能な環境がなければ腰くだけになりかねない。
だから、JTBのような企業こそ、レバレッジ、すなわちテコの原理を最大限活かすためにも、ストレッチを作用させることが大切になってくる。
労働集約型の産業にあって、一つの企業を支えているのは、モノやカネ以前に「ヒト」だということを第一義に考えれば分かり易いだろう。
「安い給料で、なぜ、あんなにも一生懸命働くのだろう」とは、よく旅行業界に働く人たちへ向けられる言葉だ。
優秀な人材を獲得し、経営資源でも優位に立つJTBにあって、彼らのやる気を支えているのは給料でも、社会的地位でもなく、一種の野心ではないか。
この野心を、上手に「企業力」に向かわせる組織体制が、今回のホールディング化の最大のテーマで、専門店・百貨店の区別ではない。
「業態の垣根を越えたサービス供与の時代」への大いなる挑戦と言えるのである。
未来図が描けなければ勝者にはなれない企業間競争で勝ち残っていくためには、従来の産業の境界を変えたり、新しい市場を創造したりする。
また、その潜在力を研ぎ澄まし、競合する相手よりも優れた識別眼を持つことが重しかし二一世紀の今では、すでに他者が築いた新しいマーケットに強者が参入して荒らしたいずれにしても、「未来をイメージする競争」に勝てなければ、産業界をリードすることはできない。
この大きな改革を本当に価値あるものにするには、五年後、一○年後、そして現在働き盛りの四○代がリタイアを迎える二○年後をイメージできるかどうかにかかっていると言えるだろう。
それよりも、他社のやらないサービス、他社がやれないビジネス、世論が認める新規事業を編み出す努力が必要だ。
そのためには、既存の古い概念を取り払い、全く新しい顧客利益を生み出すか、得意とするこれまでの領域で、新しい方法で顧客利益を生むよう知恵を絞ることが大切だ。
だけでは、将来への展望は期待薄だ。
模倣や奪取が成功するとは限らない。
結果が出せずに撤退を余儀なくされるとすれば、その最大の要因は、社員のモラルに原因があるのではなかろうか。
「JTBのネームバリューをもってすれば、何とかなる」と楽観的に考えている社員が一部で増殖している。
何度も言うようだが、インターネット技術の発展により情報が氾濫する時代にあって、あえて無駄なカネを払うほど消費者はおろかではない。
どれだけのスキルとノウハウと、確度の高い情報を持っているかを、瀬踏みしてから消費者は財布の口をあける時代だ。
買い手市場の時代なのだ。
「オンリーワン」になること急速に変化し、多様化する消費マーケットに即応していくためには、「専門性」を活かしたフットワークの軽い組織づくりが欠かせない。
専門分野ごとに組織を細分化し、それぞれが得意とするマーケットで、「オンリーワン」になること、これが、業界のガリバーとしてナンバーワンの座を死守してきたJTBの一二世紀に勝ち残るための最初の課題だ。
企業における意思決定のプロセスは、組織が大きくなると、スピードを欠く。
それぞれの立場によるさまざまな思惑やしがらみも生じるから、ビジネスの現場で得られた良いアイデアも、上層部に伝達されないまま霧消する。
専門領域、あるいは地域ごとに分社することで、それぞれの道でのオンリーワンをめざすためには、JTBの意思決定のプロセスを洗い直す必要があった。
専門性とスピード重視の新意思決定プロセス四つの「S」が新生JTBのキーワード年に一度、全国支店長会議として開催されてきた「オールJTB・ミーティング」を刷新し、ホールディング施行後はグループ会社の全取締役ならびに執行役員ら代表権を持つものたちが一堂に会する場とした。
新組織は、「株式会社ジェイティービー株主総会」を頂点に、「株式会社ジェイティービー取締役会」、「株式会社ジェイティービー代表取締役社長」と意思決定プロセスは降順する。
その先には、グループ各社の経営とグループ全体の経営という二つの意思決定機関があり、この二つが車の両輪のように位置づけられて機能する。
特に、新設された特定グループ会社の役員らとJTB取締役により構成される「JTBグループ経営戦略会議」では、グループ全体の経営方針や戦略など、重要案件に関する協議、諮問を行う。
これこそ、オールJTBの一員となるグループ各社にとっては最重要な機関で、「オールJTB・ミーティング」と双方向で意見交換ができるパイプとなる。
当然、これによりグループ全体の求心力も強まる。
このように、新たに組まれた意思決定プロセスは、JTBグループ社員一人ひとりの自由意思を尊重できる「グループ構図」を具現化しようとしたものである。
新生JTBが掲げた成長戦略に、「四つのS」というキーワードがある。
お客様や関係機関に対して、「誠実」に、「専門性」と「スピード」をもって対応し、「信頼」を得る。
これをグループ社員全員が合言葉にしている。
ホールディング化で誕生した新しいJTBの初代社長になったSは、船出直前の○六年一月一○日付『日刊工業新聞』の「○六年トップインタビュー」で、次のように語っている。
「社員には『基本的に何をやっても結構だ。
知恵で勝負してくれ』と言っている。
当然、今までにないリスクが起きる。
しかし新分野では、失敗しなければ成功はない。
一二○○億円の余剰金があるので『安心しろ』と言っている」。
「専門性」と「スピード」の二つを、分社・ホールディング化で実現させ、資金も潤沢とあれば、一見怖いものはなさそうに見える。
しかし「誠実さ」や「信頼」といったものは、マンパワーでしか培うことができない。
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